Healthy Correction

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夜間労働者の健康と夜勤明け勤務の危険性について

記事の概要

 睡眠が健康維持に大きな役割を果たし、睡眠不足が様々な疾患の原因になりうるという研究は数多くある。
 関連して、夜間勤務についても同様に健康被害を懸念する研究がいくつも発表されており、現在も夜間勤務の適切なオペレーションについての検討が様々な業種でなされている。
 また、夜勤明け(業務中)の労働者は、マイクロスリープ現象によって著しく集中力が落ちるという事が分かってきた。
 しかしながら、これらの健康被害については、短期間で直ちに顕在化するものは多くないため、現場において夜間勤務および夜勤明け業務の危険性が軽視される傾向にある
 そのため、行政機関や業界団体によって夜間勤務および夜勤明け業務の制限やガイドライン作成が必要である。

夜間勤務の健康被害

 夜間勤務の健康被害については、古くから多くの研究がなされており、例えば「交替制勤務と冠動脈疾患との関連 - 日本看護管理学会(PDF)」に代表的な研究が列挙されている。
ここでは、2016年に発表された大規模な追跡調査を紹介したい。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 これはアメリカの看護師74,862人に対し、1988年〜2010年にわたり行われた調査である。
・夜勤のある人は夜勤のない人よりも死亡率が11%高い
・夜勤を6〜14年している女性は、心血管疾患による死亡率が19%高く、15年以上している人は23%高い
・トータルではがんと交代制夜勤との関連は認められなかったが、肺がんに関してのみ死亡率が25%高い

夜間勤務が健康に与える影響

夜間勤務が健康に与える影響『Total and Cause-Specific Mortality of U.S. Nurses Working Rotating Night Shifts』より作成

夜勤明け業務の危険性

危険で気づきにくいマイクロスリープ

 西野精治先生の「スタンフォード式 最高の睡眠」に、夜勤明け(勤務時間中!)の医師に対する覚醒状況調査が紹介されている。
 これはアメリカの学会誌「Sleep」に発表されたもので、タブレット画面に現れる図形に反応してボタンを押すという作業によって行われた。
 とても容易な作業なので、通常どおりの睡眠をとっている夜勤のない科の医師は、正確に図形に反応した。
 ところが夜勤明けの医師は、数秒間図形に反応しないという状況が、90回の内3、4回発生したという。
 このようなごく短時間の突発的な眠りを「マイクロスリープ」という。マイクロスリープは予兆もなく、わずかな時間で覚醒するため、本人も周囲も気付かないことが多い。
 したがってマイクロスリープは、夜勤明けに業務を行う様々な業種において、無自覚な集中力の欠如による危険を引き起こすことが予想される。

夜勤明け医師に対する出現する図形への反応時間 出典:スタンフォード式 最高の睡眠

夜勤明け医師に対する出現する図形への反応時間 出典:スタンフォード式 最高の睡眠

夜勤者の車通勤は危険

 当然ながら自動車事故の可能性も高くなることが確かめられている。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 この調査は夜間勤務後の運転能力を測定する目的で、夜勤後の被験者の運転する自動車に監視および安全担保のための調査員を同乗させて行われた。

夜勤後の運転能力テスト結果

夜勤後の運転能力テスト結果 『High risk of near-crash driving events following night-shift work』より作成
 このグラフによると、緊急ブレーキや調査員による運転の強制終了が、運転開始後45分以降に夜勤明けドライバーにのみ起きている。 ドライバーは実際の運転で通勤中にこのような頻繁な休憩を取らないが、調査では休憩を取ったにもかかわらず顕著な運転能力の低下が起きた。
 ただし、夜勤後に単独で運転している場合と比較すると、睡眠を評価するために15分ごとに実施された休憩が、運転者の運転能力低下の方向に影響した可能性はある。 しかし、この調査結果は、夜間シフト作業員の実際の運転状況におけるフィールド調査の結果と一致しているという。*1
 詳しく見ていくと、夜勤明け運転者の運転障害は45分後により深刻になるが、最初の15分以内に車線の逸脱および眠気を示す指標が悪化している。また、マイクロスリープの回数も運転開始後30分で1時間あたり0.13回から1.31回に急増した。

車線逸脱回数

車線逸脱回数 『High risk of near-crash driving events following night-shift work』より作成

 したがってこれらのデータから、通勤時間の比較的短い夜間労働者においても、疲労に関連した運転事故が起こりやすいと推定できる。

 これらの調査結果は、他者の命を預かる運転者(電車や夜行バス、旅客機パイロットなど)に対しても当てはまることが考えられ、公共交通機関の安全を脅かす事にも繋がる。

労働者および管理職双方の睡眠不足に対する意識の低さが事故を誘発する

 前半で扱った夜間勤務が健康に及ぼす影響については、タバコの健康被害などと同じく短期的には認知されにくい。
 例えば、筆者が関わったことのある夜間勤務のある職場では、「夜勤明けに溜まっている仕事をこなすべき」という風潮すらあった
 長期的な健康への悪影響だけでなく、勤務中に起きるマイクロスリープの危険性を考慮すれば、夜間勤務は不要不急の深夜労働の規制やガイドラインの作成などにより、国家レベルで対応を検討する価値のある問題ではないだろうか。